「シカが四頭出た。待ち場に行ったぞ!」−勢子(せこ)のささやき声が、無線機から聞こえる。何もかも凍り付いた雪山。猟師たちは氷点下の冷え込みに耐えながら、じっと息を殺している。狩猟シーズンが終盤を迎えた一月二十三日。郡上市白鳥町で、市猟友会白鳥支部の「共猟会」に密着した。 (中山道雄)
午前八時。支部の会員十人が白鳥振興事務所に集まった。支部長の清水辰雄さん(73)が中心となり、巻き狩りの段取りをする。猟場は福井県境に近い向小駄良と決まった。勢子は山の斜面を登って獲物を追い立てる。待ち場は山の中腹を横断する林道沿いに配置し、猟銃で迎え撃つ。
待ち場に向かう林道は六〇センチを超える積雪があった。取材に備えてかんじきを用意したものの、足が雪にはまって歩きにくい。郡上育ちで雪山に慣れたベテラン猟師たちは、きつい坂道をすいすい進む。息が乱れて何度も休むうち、置き去りにされてしまった。
猟場は町中心部に近い。清水さんは「モノ(獲物)が林道を越えてから撃て」と繰り返した。散弾銃なら七百メートル、ライフル銃は四キロ近く弾が飛ぶ。不用意に発砲すれば、人家まで届いて事故を招きかねない。
待ち場に入った猟師は、木の陰に隠れてひたすら待つ。誤射の危険があるため、指示が出るまで動けない。吹きさらしの山は寒く、手足がかじかむ。肩にかけたカメラのボディーが氷のように冷たくなった。
午前十時すぎ。無線の交信が慌ただしくなった。「谷にシカの足跡がある。これに乗っていく(つけていく)」「モノが走った」「待ち場は動くな」……。数分後、近くで「ドン」という銃声が二発。獲物の動きを追うように、また発砲。緊張が続く中、「外れた。シカに抜けられた」という無線が入った。
猟場は広く、森の中は見通しがきかない。シカは人間の裏をかくように移動し、十人ではなかなか捕捉できない。十六日にあった共猟会は二十二人が参加したが、猟果ゼロに終わった。
捜索と追跡を繰り返す巻き狩りは正午すぎまで続き、シカ一頭を捕獲した。撃った場所が山奥だったため、搬出に時間がかかる。午後一時半、やっと獲物を下ろした猟師たちは「寒いし、きついし、猟も楽じゃない」と笑った。
県猟友会によると、一九七九年度に八千七百七十七人いた会員は、二〇二〇年度に二千百十九人まで激減した。それでも、郡上市の会員は二百三十一人おり、飛騨地区に次ぐ県内二番目の陣容を保っている。
共猟会は普段顔を合わせることが少ない会員同士の交流を深め、大物猟の伝統を守る目的がある。清水さんは「若手を育てていかなければ、狩猟はすたれてしまう。農林業の獣害を防ぐためにも、狩猟技術を伝えていきたい」と話した。
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February 06, 2022 at 02:00PM
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