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「金‐銀‐銅」の合金微粒子を生成 オリンピックメダル金属の3元素から成る高性能触媒を開発 - 東京工業大学

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要点

  • 1ナノメートルサイズの粒子中に金・銀・銅を混合した触媒を開発
  • 従来の触媒よりも低温・低圧で駆動する、炭化水素の高活性酸化触媒
  • 高エネルギー物質であるヒドロペルオキシドを生産する特殊な触媒

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院の塚本孝政助教、山元公寿教授、田邊真特任准教授、神戸徹也助教らの研究グループは2018年にグループが開発した「アトムハイブリッド法[用語1]」を応用し、複数の元素を混ぜ合わせた極小のナノ粒子「サブナノ粒子[用語2]」を利用した特殊な高活性酸化触媒の開発に成功した。

研究グループは今回、金・銀・銅の三種類の金属元素を含むサブナノ粒子を触媒として使用し、炭化水素の酸化反応[用語3]を中心に性能を調査した。その結果、この合金粒子は従来の触媒よりも低温・低圧で駆動し、空気中の酸素分子のみを使用、特別な反応剤も必要としない極めて温和な反応条件で機能する高活性触媒となることを発見した。さらに、通常は得られない特殊な高エネルギー物質「ヒドロペルオキシド[用語4]」が安定して得られることも明らかになった。

低資源量、低エネルギーで高い活性を発現することから、このようなサブナノ粒子触媒は資源問題やエネルギー問題の視点からも有用な材料になると期待される。さらに、粒子中の元素を適切に組み合わせれば、触媒反応を用途に応じて自在にデザインできる可能性があり、将来的には資源やエネルギーをほとんど消費することのない新たな環境材料の創出が期待できる。

研究成果は2020年8月26日発行のドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー国際版)」オンライン版に掲載された。

背景と経緯

炭化水素は石油や天然ガスなどの化石燃料の主成分で、プラスチックや化学繊維、医薬品を始めとした様々な機能材料の原料となっている。炭化水素は一般的に化学反応を起こしにくいため、これを有用な物質に変換するために様々な触媒が研究されており、近年は特に高い反応活性を持つナノ粒子触媒が注目を集めている。

中でも、通常のナノ粒子よりもさらに小さな、粒径が約1ナノメートルに達する「サブナノ粒子」は、一際高い触媒活性を発現すると期待されている。しかし、一般的なナノ粒子とは異なり、原子レベルの精密制御が要求されるサブナノ粒子の合成は技術的に難しいため、これまでこの極小サイズの触媒はほとんど研究されてこなかった。

研究成果

塚本孝政助教、山元公寿教授らの研究グループは2018年に開発したサブナノ粒子の精密合成法「アトムハイブリッド法」を応用し、特異な化学反応活性を持つ合金サブナノ粒子触媒の新規開発を目指した。

グループは今回、三種類の貨幣金属[用語5]元素(金・銀・銅)を含む合金サブナノ粒子触媒に着目し、モデル物質であるシクロヘキセンを出発原料として、炭化水素の酸化反応の試験を行った(図1)。その結果、特に銅原子を含む粒子が酸化反応の触媒として働いており、バルク(塊状物質)やナノ粒子と比較して、サブナノ粒子は非常に高い反応活性を持つことが明らかになった。

さらに、金原子や銀原子と合金化することで反応活性はより増幅され、三種類の元素を含む金–銀–銅合金は最も高い触媒性能を示した(図2)。また、この合金粒子は従来の触媒よりも低温・低圧で駆動し、酸素分子のみを使用し、特別な反応剤も必要としない、極めて温和な反応条件で機能することも明らかになった。研究グループはコンピューターシミュレーションにより、各金属元素が粒子中でそれぞれ固有の役割を担っており、これらの効果が協奏的に働くことが高い反応活性の要因になっていると予測している。

さらに、通常では得られない特殊な高エネルギー物質であるヒドロペルオキシドが選択的に得られることも発見された(図2)。炭化水素に過酸化水素が結合したヒドロペルオキシドは、過酷な反応条件ではすぐに分解してしまう不安定な物質だが、今回実現された極めて温和な触媒反応によって安定した生成が可能になったと考えられる。

図1. アトムハイブリッド法を利用した、金–銀–銅の合金サブナノ粒子の合成。

図1. アトムハイブリッド法を利用した、金–銀–銅の合金サブナノ粒子の合成。

デンドリマー[用語6]に粒子の原料である金、銀、銅の金属塩を取り込ませ、これを還元することでサブナノ粒子を得る。1ナノメートル程度のナノ粒子の中に、各元素が混合していることが分かる。

図2. サブナノ粒子によるヒドロペルオキシドの生成とその触媒性能。

図2. サブナノ粒子によるヒドロペルオキシドの生成とその触媒性能。

反応を触媒するのは主に銅原子であるが、バルク(塊状物質)やナノ粒子ではほとんど反応が進まない。一方で、サブナノ粒子まで小さくなると触媒性能が大幅に向上し、金原子や銀原子と合金化することでこれがさらに増幅されることが分かる。

今後の展開

アトムハイブリッド法を応用することで、従来よりも遥かに穏和な条件で駆動し、既存触媒を凌駕する活性を持つ新たな触媒の開発に成功した。この成果はサブナノ粒子を構成する元素を適切にデザインすることで、触媒反応を自在にカスタマイズできる可能性を示している。

また、このようなサブナノ粒子触媒はごく少数の金属原子しか使用せず、かつ低温でも機能することから、資源問題やエネルギー問題の視点からも有用な材料になると期待される。将来的には、資源やエネルギーをほとんど消費することのない次世代環境材料の創出に繋がる可能性がある。

用語説明

[用語1] アトムハイブリッド法 : デンドリマー(用語6参照)をナノサイズの鋳型として利用し、原子レベルの精度でサブナノ粒子(用語2参照)を合成する手法。デンドリマーの構造中には多種多様な金属イオンを、さまざまな組み合わせで取り込ませることができる。この取り込んだ金属イオンを化学的に還元することで目的のサブナノ粒子を得る。

[用語2] サブナノ粒子 : 直径が約1ナノメートル程度のナノ粒子のこと。わずか数個〜数十個の原子で構成されており、ナノ粒子の中でも特に小さく、一般的なナノ粒子にはない特異な機能を有している。

[用語3] 炭化水素の酸化反応 : 炭素と水素のみから成る有機分子を酸化する反応で、ロウソクの炎やガソリンの燃焼もこの反応の一種である。炭化水素は非常に安定な炭素–水素結合を持つため化学変換が難しく、高温や高圧、強力な酸化剤、触媒などを必要とする場合が多い。また、通常は様々な酸化生成物が得られることから、目的の物質のみを効率よく得るために多くの工夫が施される。今回出発原料として利用したシクロヘキセンは、炭素6原子と水素10原子から成る環状の炭化水素。

[用語4] ヒドロペルオキシド : 炭化水素と過酸化水素が結合した物質。一般的な酸化触媒では、炭化水素と酸素が結合した「酸化物(オキシド)」や水が結合した「水酸化物(ヒドロキシド)」が得られるが、今回開発した触媒ではヒドロペルオキドが選択的に生産される。オキシドやヒドロキシドと比較して、ヒドロペルオキシドは高いエネルギーを保持した珍しい物質で、様々なファインケミカルの原料としての利用が期待される。不安定な物質であるため通常はすぐに分解してしまうが、サブナノ粒子を利用した低温・低圧の温和な触媒反応により、初めて安定して得ることに成功した。

[用語5] 貨幣金属 : 周期表の第11族元素である金・銀・銅は、オリンピックメダルを初め、様々な硬貨に用いられることから貨幣金属とも呼ばれる。他の金属元素と比較して腐蝕されにくく、特に金は化学反応をほとんど起こさないため、錆びない金属としてよく知られる。このような不活性な金属元素は触媒には不向きであると考えられていたが、近年、ナノ粒子のサイズまで小さくすることで触媒性能を発現することが発見された。金・銀・銅の元素記号はAu・Ag・Cuで、原子番号は29・47・79。

[用語6] デンドリマー : コアと呼ばれる中心構造と、デンドロンと呼ばれるコアから樹状に延びる側鎖構造から構成される特殊な高分子。本研究では、金属イオンを取り込むことが可能なイミンと呼ばれるユニットを、コアとデンドロンの構造中に多数組み込んだ、独自設計のデンドリマーを採用している。

論文情報

掲載誌 :

Angewandte Chemie International Edition(アンゲヴァンテ・ケミー 国際版)

論文タイトル :

Selective Hydroperoxygenation of Olefin Realized by Coinage Multimetallic 1‐nanometer Catalyst(1ナノメートルの貨幣金属合金を触媒としたオレフィンの選択的ヒドロペルオキシ化反応)

著者 :

Tatsuya Moriai, Takamasa Tsukamoto, Makoto Tanabe, Tetsuya Kambe, Kimihisa Yamamoto

DOI :

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September 18, 2020 at 10:40AM
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