Search

PayPayなどのスマホ決済が「全銀システム」につながると何が変わるか【深掘り】 - Business Insider Japan

gin.prelol.com

個人間の小口送金は実質「ことら」が担う

個人間送金

比較的少額な送金は「ことら」が担うだろう(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

いずれにしても、こうしたコストのかかる仕組みが全銀システムだ。利用者に対しては通常、手数料という形で請求される。「友人に借りたランチ代1000円を返す」という程度の理由で使うにはちょっとコスト高な仕組みだ。

そこでタスクフォースの中で検討されたのが、少額で頻繁に行われる取引(多頻度小口決済)には別のシステムを運用するという流れで、これが2022年10月に株式会社ことらが開始する「ことら送金」だ。

ことら

ことら送金。

撮影:小林優多郎

ことらは、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行のメガバンク5行が構築する決済インフラで、既存のデビットカードサービス「J-Debit」の仕組みを流用している。

J-Debitは1000行以上の金融機関が接続する決済インフラで、ことらが用意するAPIに接続すれば、資金移動業者でもJ-Debit加盟銀行などに送金できるようになる。

コストは現時点で明らかにされていないが、ことらの川越洋社長は「決済事業者が自社の優良顧客には月数回の無料送金を提供する」というサービスが成り立つ程度には、事業者側に求める手数料が安価になるという。

ことら送金は資金移動業者同士(例えば、PayPayとd払い)や、資金移動業者と銀行同士(例えば、PayPayと三井住友銀行)の間の「個人間送金」をターゲットにしている。

ことら 資料

ことらに関する資料。

出典:全国銀行資金決済ネットワーク

ことら自体は、やや銀行側が前のめりで資金移動業者側の反応が鈍いという業界の声は複数聞こえてくるが、一般的にこうした個人間送金は資金移動業者にとって潜在ニーズが高い。

自社の決済アプリ内でことらにAPI接続して、アプリのUIやUXを損なわない形でサービスが提供できるようなら、ことらは十分利用が進む可能性はあるだろう。

ことら送金の仕組みを実現するために、全銀システムとことらは連携する形になっており、すでに接続試験も実施済み。

つまり、資金移動業者が全銀システムに接続できるようになるといっても、「個人間送金ではことらを用いる前提」。全銀システムの利用は想定されていないということになる。

全銀システム接続で「海外送金」「高額送金」が変わるか

お金

お金のやり取りがどのように変わるのか(写真はイメージです)。

撮影:今村拓馬

では、どういった用途が想定されているのか。

個人間送金ではなく、海外送金は1つのニーズがありそうだ。

規模の大きい金額を海外に送金する場合、全銀システムに直接接続してコストを抑える事業者はありえるだろう。規模が大きくなるほど直接接続のメリットはありえる。

デジタル給与払いへの用途も考えられる。ことらは10万円以下の個人間送金を対象にしており、法人から個人に、数十万円を送金するデジタル給与払いでは使えない。

ただ、給与・賞与は内国為替制度運営費が無料となるが、現時点でデジタル給与払いの扱いが定まっていないため、全銀システムでどのように扱われるかは決まっていない。

仮に給与として認められる場合には、より安価に企業の口座から全銀システムに接続した決済サービスに入金することが可能になる。

法人側にとっては、手数料が安価な決済事業者を使って給与を支払えば手数料の削減ができる。

ユーザーにとっても、決済サービスに振り込まれればそのまますぐに支払いに使えたり、安価な手数料で送金したりといったメリットが生まれる可能性はある。ただ、これは法改正が必要なため、今すぐに実現される話ではない。

もっとも、多額の資金を扱う場合、上限100万円の第2種資金移動業者では難しい。制限のない第1種になると、今度は滞留規制によって残高を保持(滞留)させることが難しくなるため、即座に別に送金する必要がある。

この場合は、法人間の送金や富裕層向けサービスの構築もありえる。証券、銀行と連携して決済アプリのUIで証券口座への多額の資金移動なども可能だろう。その点では全銀システムへの接続はありえるかもしれない。

多額の資金を移動する場合、振り込まれた事業者の破綻という懸念がある。そうした懸念に直接応えるわけではないが、全銀システムに直接接続する場合、日銀の審査があるため、事業や経営の体制には一定の評価が下される。

加えて全銀システムの仕組みでは、A銀行口座から100万円をB銀行口座に送金する場合、日銀上のB銀行当座預金からB銀行口座に即時振り込まれるが、実際にA銀行からB銀行への資金移動はその日の夕方に一括して行われる。

そのため、あくまで理論的にはだが、朝の送金指示後、A銀行が破綻した場合、A銀行からB銀行への送金が行われないという可能性もある。

決済の安定性を脅かさないように、あらかじめ日銀には送金する金額相当分の担保を収める必要がある。逆に言えば、それだけの担保を出せる企業ということで、デジタル給与払いでも破綻の危険性が少ない、という判断はできそうだ(保証ではない)。

資金移動業者への全銀システム開放における金融庁のモニタリングも、こうした健全性を維持するためのものだ。

こうした仕組みは安心感にはつながるが、筆者としては、そのために事業者側が無理なコスト負担をする必要性はあまり感じない。このあたりは事業者側の判断ではある。また、新興企業にとっては難しい仕組みなので、効果を感じる事業者は多くはなさそうだ。

決済事業者にとっては加盟店売り上げの入出金におけるコスト削減も期待できる。とはいえ、すでに内国為替制度運営費によってコストは下がっている。

PayPayの例では、加盟店への入金が、翌日振込でPayPay銀行なら手数料が安価になるという「早期振込サービス(都度)」も提供しているが、これは経済圏への囲い込みという戦略の一環もあるだろう。

他の金融機関への手数料を削減するために全銀システムへ直接(間接)接続するのも、それだけが理由だとややコストが重いと考えられる。

逆にことらがあるので、売上をPayPayマネーとしてPayPayに入金し、店舗側が好きなときにことらで自身の口座に送金する、という使い方はありえる。PayPay銀行を経由せずに毎日の売上入金も可能になるかもしれない。

少額資金を銀行口座から定期的に自動的に引き出して振込をするサービスを提供する、というパターンはありえるが、口振を使う場合に比べたコスト負担の差が問題となる。

コスト高の全銀システムがどこまで有効に機能するかは難しいところだ。

全銀システムへの接続が始まるのは2023年終盤か

現実問題として、「全銀システム開放」はまだ先の話だ。

現行の議論がまとまり、全銀ネットが業務方法書を改定して金融庁が認可すれば、資金移動業者の全銀システム接続の道筋が整う。これは早ければ2022年秋というスケジュール感だろう。

それですぐに接続できるわけではなく、他にも改定が必要な規則などもある。直接接続する場合は日銀へ当座預金開設のための申請と審査があり、さらに全銀システムの中継コンピュータ(RC)に接続するためのインフラ構築が必要だ。

もろもろの準備をクリアするために、業界では「1年以上かかるのでは」という声もある。そのため、実際に事業者の接続が開始されるのは2023年終盤以降になる見込み。間接接続ならばもう少し早い段階で接続される可能性はある。

現状はRC接続を使う全銀システムだが、APIゲートウェイ接続に向けての議論も行われている。API接続になれば、全銀システムへの接続がより簡単になるという方向性だが、これはまだ議論途中の話で、直近の全銀システム開放とは別に進められている議論だ。

RC接続の負担を考えると、資金移動業者はこのAPI接続の実現を待って接続を検討する、という選択もありえるだろう。

ただし、API接続は暫定的に2024年1月のスタートとなっており、現時点での銀行側の参加希望が0行というアンケート調査もある。

多くの銀行は2028年の第8次全銀システム稼働予定を待って、API接続することを想定している模様で、それまではAPIではなくRC接続を前提としたシステム構築をする必要がある。

2028年まで待つと全銀システムを利用したサービスの提供時期が遅くなってしまうが、RC接続ではコストに見合わないと考える資金移動業者も出てくるだろう。

当面は全銀システムに接続しない従来の枠組みで新サービスなどを提供し、API接続が現実的な段階になってから、改めて全銀システムへの接続を検討する事業者が現れるのが、現実的な方向性にも見える。

(文・小山安博、編集・小林優多郎

Adblock test (Why?)


August 24, 2022 at 06:00AM
https://ift.tt/A98UYb6

PayPayなどのスマホ決済が「全銀システム」につながると何が変わるか【深掘り】 - Business Insider Japan
https://ift.tt/1ZxFfyw
Mesir News Info
Israel News info
Taiwan News Info
Vietnam News and Info
Japan News and Info Update

Bagikan Berita Ini

0 Response to "PayPayなどのスマホ決済が「全銀システム」につながると何が変わるか【深掘り】 - Business Insider Japan"

Post a Comment

Powered by Blogger.