中国人民銀行(中央銀行)は決して、西側諸国の中央銀行のように政治から独立した存在ではなかったが、それでも経済運営を担う組織の中で特別な地位が与えられていた。だがここにきて、金融業界の刷新を狙う習近平国家主席の取り組みがこれを奪おうとしている。 人民銀は今週、足元で示唆していた政策シグナルに反する格好で、預金準備率を引き下げると発表。事実上、与信拡大に向けた原資を市中に追加提供した。背景にあったのは、成長の急減速に危機感を募らせた指導部の圧力だ。中国では目下、習氏が主導して経済における資本主義勢力を抑制する動きが広がっており、人民銀を筆頭に金融当局組織が習指導部の追及にさらされている。 習氏が派遣する規律検査官の監視下にある金融組織の中でも、人民銀は間違いなく最も重要だ。人民銀は世界有数の規模を誇る金融システムを監督する立場にある。利上げなど金融政策に関する重要決定については、政権中枢から承認を得る必要があるものの、人民銀は長年にわたり国内外の投資家の信認を得ようと努めてきた。中国の市場が発展するのに伴い、その影響力も世界に及ぶようになったためだ。 中国の反汚職トップ機関から派遣された共産党の規律検査官はこのほど、北京中心部にある人民銀本部を立ち入り調査した。説明を受けた当局者によると、検査官は質問や文書の精査を行った上で、異例の厳しい警告を行った。中国政府は中銀の独立性に関する議論は決して容赦せず、金融当局は他の政府組織と同様、共産党に従う必要がある――。 人民銀を含め、中国経済の中心にある25前後の金融組織が目下、習氏の規律検査官による追及を受けている。検査官の派遣が始まったのは今秋。中国指導部が問題視するテクノロジーや娯楽、教育といった業界に対する緩い規制に対処し、借り入れによる不動産投資への過剰依存を低減しようとしていた時期だ。 内情に詳しい関係筋によると、検査官は中でも、こうした国家の金融当局組織が民間企業と懇意になりすぎていないか、人民銀のような金融規制当局については、アント・グループや中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)といった民間企業がもたらすリスクへの対策で不備がなかったかに主眼を置いている。 人民銀は不動産融資の取り締まりについて、「政策規律」と呼んで歓迎しており、信用緩和は投機的なバブルを増幅させるだけとの立場を示している。 恒大集団など不動産開発業者のデフォルト(債務不履行)懸念で金融市場が動揺する中でも、人民銀の金融政策部門責任者、孫国峰氏は銀行融資を促すため、預金準備率を引き下げるとの臆測を払拭(ふっしょく)しようと努めた。 孫氏は10月15日に開いた会見で「10-12月期全体に関して、流動性の需給状況は基本的に均衡するはずだ」と指摘。人民銀による大規模な流動性供給は必要ないとの考えをにじませた。 エコノミストや投資家は同氏の発言に留意し、ノムラのアナリストは同月17日、投資家向けメモで10-12月期に預金準備率の引き下げは想定していないと指摘していた。 ところが、中国指導部はその後の数週間に、不動産業界を巡る混乱を抑えるよう多大な圧力にさらされた。製造・サービス業双方の経済活動を著しく脅かす恐れがあったためだ。経済政策に関して中国指導部に助言する上級アドバイザーによると、7-9月期の成長率が4.9%と想定以上に大きく下振れたことを受け、指導部は景気支援を強化することを決めた。これに対し、人民銀はより保守的な政策スタンスの維持が望ましいと考えていた。 李克強首相は3日、国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエワ専務理事とのビデオ通話で、景気テコ入れに向けて預金準備率を引き下げると明言。人民銀のガイダンスをほぼ全面撤回した。中国国営テレビが流した映像では、背後で熱心にメモを取る易綱・人民銀総裁の姿があった。 人民銀はその3日後、預金準備率の引き下げを発表した。政策規律を唱えてきたにもかかわらず、人民銀は景気支援に向けてさらなる引き下げを余儀なくされる可能性があり、エコノミストからは来年の利下げを想定する声も出てきた。 人民銀は15年にわたり、経済改革の推進で知られる周小川氏が率いてきた。周氏は中銀の透明性と政策設定における独立性の向上が望ましいと考えていた人物だ。人民銀は周氏の下で、経済運営で大きな影響力を持つようになり、国民からは「ビッグママ」と呼ばれる存在になった。 政界の事情に精通し、実務家として豊富な専門知識を持つ周氏は、引退を何とか5年先延ばしし、キャリアの総仕上げとして最後は人民元の国際化に注力した。同氏は2018年に引退している。 また周氏は総裁時代に、現在は金融セクターの監督を担当する副首相で、市場寄りで知られる劉鶴氏と連携していた。2人は中国官僚組織の中で人民銀の地位を押し上げ、成長に陰りが見えるたびに与信拡大を求める他の政府機関からの干渉をはねつけられるようにした。 コーネル大学のエスワー・プラサド経済学教授(IMFの元中国担当責任者)は「人民銀は金融政策の運営でわずかながらも一定の自律を確保し、金融の自由化や市場原理により基づく金融政策の枠組みを推進してきた」と述べる。 だが「金融政策運営上の自律という概念は、経済への介入姿勢を強める政府の役割との間で対立を強めている」と指摘する。「人民銀は敗北しつつある」 規律検査官は、人民銀でフィンテック企業の監督を担当していた王永紅氏のほか、内情に詳しい関係筋によると、同じく人民銀で金融安定を任されていた元幹部、周学東氏の調査にもすでに着手している。 2人がなぜ調査の対象となっているのかは分かっていない。両氏のコメントは得られていない。人民銀、中国共産党の中央規律検査委員会(CCDI)は質問に応じていない。
December 09, 2021 at 07:32AM
https://ift.tt/3yaBoKB
中国人民銀にもメス、習氏の締め付け容赦なく(ウォール・ストリート・ジャーナル日本版) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース
https://ift.tt/3ay8us5
Mesir News Info
Israel News info
Taiwan News Info
Vietnam News and Info
Japan News and Info Update
Bagikan Berita Ini
0 Response to "中国人民銀にもメス、習氏の締め付け容赦なく(ウォール・ストリート・ジャーナル日本版) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース"
Post a Comment