
■ふとよぎるアルミニウムへの不安 悪い意味で記憶に残っている「ごはん」の話を、もうひとつ。 ペルーでは砂漠を自転車で走行中、拳銃を持った3人組の強盗に襲われ、ボコボコにされたあげく、自転車以外の荷物をすべて奪われてしまった。 当然現金も失い、カードも盗られたのだが、不正使用される前にカードを無効にしたので、口座のお金は守られた。1週間ほどで新しいカードが送られてくると、すぐにATMでお金を引き出し、なんとか生活できるようになった。 それから再出発のために現地の市場をまわり、装備品を揃えていったのだが、なにしろ大金を失ったあとだ。節約スイッチが入り、安いものばかり買った。 車輪の横につけるサイドバッグは買い物バッグで代用した。市場に山積みされた、ナイロン糸を編んだ生地の大きなバッグだ。1個約60円。これを4つ、前後輪両サイドの荷台に自転車の古チューブで巻き付けた。悪路の坂を下っていると、しょっちゅう外れて落ちるので、そのたびに自転車をとめ、バッグを拾いにいかなければならなかった。 調理器具は、取っ手がとれ、重ねて収納できるアウトドア用のコッヘルではなく、家庭用の普通の鍋をふたつ買った。取っ手が邪魔だが、サイドバッグ代わりの買い物バッグが巨大だから、なんでも気にせず突っ込むことができる。アルミ製で、厚さ約5mmと肉厚だが、驚くほど軽かった。地面に商品を広げ、埃まみれで売っているような露店で買った安物だが、意外とそういうところに掘り出しものがあるのだ。村人が何気なく使っている日用品が案外優れ物なのだ。アウトドア用品は軽さやコンパクトさを追求するあまり高額になってしまうが、"かさ"に目をつぶれば、安い日用品でこと足りるのだ。僕は自分の買い物センスに満足した。 ところが、再出発して数日後のこと。ごはんを炊いて蓋を開けたとき、奇妙なものが見え、あれ?と首を傾げた。でもまさかな、と思いなおし、暗くてよく見えなかったこともあって、違和感を胸にしまった。 それからもほぼ毎日ごはんを炊いたが、食べる頃には暗くなっており、闇鍋状態でワシワシかき込んでいた。 ある日、珍しく早い時間に走り終え、明るいうちにメシをつくった。鍋の蓋を開けた瞬間、ん?と眉をひそめた。ごはんが灰色に見える。いや、どちらかというと銀色か。なるほど、これが銀シャリか、なんちって。そうはぐらかそうにも、不安のほうが軽く上回った。 光の加減で銀色に見えているだけかもしれない、とスプーンでごはんをほじってみると、中は普通に白かったのでカクンと首を垂れた。つまり、ごはんの表面だけ膜が張ったように銀色だったというわけだ。鍋のアルミ成分が溶け出したのだろうか? このときはしかし、嫌な感じはしたが、それほど深刻には受け止めなかった。アルミニウムとアルツハイマーの関連が騒がれ始めたのはこの頃からだが、長旅をしている僕の耳にはまだ届いていなかったのだ。 アルミニウムというだけで、なぜか気持ち悪い感じがするが、でも鉄分が体に必要なように、この銀色の膜も体にいいかもしれないとさえ考えた。だからその後も鍋を使い続け、銀色の膜が張ったごはんもそのまま食べていた。 それから半年ほどたった頃、鍋の蓋がはまらなくなった。見ると鍋がゆがみ、わずかに楕円になっている。自転車が横倒しになったとき、鍋が圧迫されたのかもしれない。困ったな、と思いつつ、つぶれた鍋の側面を両手で持ち、ぐいっと開いてみると、簡単に広がった。いやそれどころか勢いあまって広がりすぎてしまった。ウソ!?と慌てて押し返すと、ぐにゃ、と今度は逆方向にあっさり曲がる。 「工作粘土かよ!」 よく見ると、肉厚の鍋が心なしか薄くなっていた。つまり、手で簡単に曲がるぐらい薄くなるまで、鍋のアルミニウムは毎日ご飯に溶け出し、そのすべてが僕の体に吸収されていったというわけだ。ははは、なるほど。っておい。 「......アルミなんか食って本当に大丈夫なのか?」 それでも南米にいるあいだはずっとその鍋を使い、銀色の膜が張った銀シャリを1年以上食べ続けた。 その後ヨーロッパに飛び、ノルウェーのアウトドアショップでコッヘルを買い、ペルーのぐにゃぐにゃ鍋とはお別れした。 7年半ぶりに帰国後、アルツハイマー患者の脳からアルミ成分が大量に出たとか、水道水にアルミ成分が多く含まれる地域はアルツハイマー患者が多い、といった話を聞いて倒れそうになった。 今ではアルミとアルツハイマーの関連を否定する向きもあるが、確かなことは例によって、よくわかっていない。ただ、最近僕は明らかに物忘れがひどくなった。妻も呆れた顔をしている。伴侶に言うべきか言わざるべきか。悩んだ末に「実はな......」とこの銀シャリの顛末を初めて妻に打ち明ける。妻はなぜか聞き飽きたように、ますます呆れ顔になっている。 文・写真:石田ゆうすけ
October 17, 2021 at 09:00AM
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