――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」
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1896年、元議員で銀の愛好家だったウィリアム・ジェニングス・ブライアン氏は「人民を金の十字架にかける」者を非難した。オンライン掲示板レディットに集う投資家は今、自らの銀の十字架を立てるリスクを冒している。
2月1日の先物市場で銀価格は約11%急伸し、1オンス=30ドル近辺に達した。これは1日としては2009年以来の大幅な上昇だ。個人投資家は先週、株式市場で機関投資家のショート(売り持ち)を打ちのめしたが、今度は銀に狙いを定めている。こうした素人のデイトレーダー集団はオンラインで連携し、米ゲームソフト小売り大手ゲームストップや企業向けソフトウエア開発を手掛けるカナダのブラックベリー、アメリカン航空グループなど不人気だった銘柄を急騰させた。
ハンドルネーム「RocketBoomGo」のユーザーは1月30日、レディットに「銀相場は地球上で最も操作された市場の一つだ」と書き込み、銀価格を1000ドルに押し上げるよう個人投資家らに促した。「銀にショートスクイーズが起きれば壮大なものになるだろう。多くの銀行が実質インフレ率を隠すために金や銀を操作していることは分かっている」
レディットのユーザーたちはこれまでのところ、売買高の少ない銘柄で市場を揺るがすことに成功している。だが、はるかに流動性の高い銀市場では、それほど運が向かないかもしれない。
銀市場で買い占めしようとする過去の試みは失敗に終わっている。1979年には石油王H.L.ハントの息子3人が銀価格を8倍に押し上げたが、レバレッジ付きの商品(コモディティー)購入に関する規制変更を受けて相場は暴落した。暴落の起きた1980年3月27日は「シルバー・サーズデー(銀の木曜日)」として知られる。ハント兄弟が世界で政府以外から供給される銀の3分の1余りを買い占めたにもかかわらずこうした結果に終わったことは、市場に厚みのある銀価格を操作するのがいかに難しいかを物語っている。また、公式データによると、ヘッジファンドは銀の上昇に賭けている。下落ではない。個人投資家が自分たち以上に機関投資家を傷つけるようなバブルをあおる可能性は、ゲームストップ株の例より低そうだ。
確かに、ゲームストップ株のように、銀が過小評価されていると考える理由については、いくらか理にかなう面もある。貴金属は物価連動国債(TIPS)利回りと逆の動きを示すことが多いが、TIPSの利回りは歴史的な低水準近辺にある。さらに、銀とプラチナは以前は金とほぼ連動していたが、ここ約10年は一貫して金をアンダーパフォームしている。そろそろ金に追いつき始める頃かもしれない。新型コロナウイルス収束後の回復で銀やプラチナの工業需要が押し上げられればなおさらだ。
だがそれよりも、多くの個人投資家は貴金属が「リアルマネー」だという誘惑の言葉に魅了されている可能性が高い。
金の信奉者は、公表されている消費者物価指数(CPI)の上昇幅よりも、「実質インフレ率」がはるかに高いと確信している。中銀が紙幣を印刷する時代はいずれ、第1次世界大戦前の金本位制への回帰を強いるだろうと考えているのだ。金本位制では市場で決まる正貨の流れで物価が決まるとされていた。
こうした「病理学」のアルゼンチン版とも解釈できる銀の信奉者は、数こそ少ないものの熱意は一段と高い。金貨や銀貨が実物貨幣として流通していた時代まで想起させ、米国のポピュリスト運動で前出のブライアン氏ら政治家が主導した19世紀終盤の「複本位制論者」の議論まで呼び起こすものだ。
ただし、こうした考えのほとんどは、金本位制と実物通貨が実際にどう機能したかを巡る思い違いに根ざしている。
レディットに集う投資家はなお、ヘッジファンドの一部を打ち負かす余力があるかもしれない。それでも、光り輝く標的には手を出さない方が得策だろう。
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February 02, 2021 at 01:05AM
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